抗生物質の本質的理解に向けた放線菌の分子生理学的研究


  20世紀初頭のペニシリンの発見を契機に,抗菌性を有する物質が微生物の二次代謝産物から探索されるようになりました。1940年代には,土中に棲む放線菌の二次代謝産物から結核菌に効くストレプトマイシンが発見され,抗生物質という言葉が誕生しました。それから現在に至るまで,様々な微生物から多くの抗生物質が開発され,人類はそれらから多大な恩恵を受けてきました。抗生物質の元来の定義は,微生物が生産し,他の微生物の生育を抑制する効果があり,動物に対して毒性の低い化学物質とされています。抗生物質と聞けばこのイメージが浮かびますが,自然界ではどのような存在か?といった抗生物質の根本的な性質が十分に理解されているわけではありません。多剤耐性菌が次々と発生する中で新しい抗生物質の発見が求められています。しかし放線菌をはじめ微生物の二次代謝産物から得られることの多い抗生物質の発見数は減少の一途を辿っています。この窮地を乗り切るには新しい抗生物質の開発や抗生物質耐性機構の解明に尽力することに加え抗生物質の本質を理解すること極めて重要です応用分子微生物学研究室では,微生物に関する素朴な疑問や抗生物質を取り巻く様々な課題に触れながら,それらの解明と応用研究への展開を目指しています。

 

*放線菌は,抗生物質をはじめとする様々な二次代謝産物を生産することで知られており,産業的に極めて有用な微生物群です。現在までに発見された微生物由来の低分子生理活性物質(広義の抗生物質)の7割近くが放線菌の二次代謝産物であり,それらの中には,医薬,農薬,動物薬として実用化されたものが数多くあります。過去十数年のゲノムプロジェクトの成果からは,放線菌の二次代謝に関与する遺伝子の多くが潜在的に存在していることも判ってきました。以上の事実から,放線菌の二次代謝の仕組みを深く理解し,その潜在的な二次代謝能を引き出し活用することは,微生物創薬の研究を発展させる上での重要課題の一つと位置づけられています.